風鈴の音が聞こえる上生菓子『団扇』
夏の日の午後。 カラリと晴れた空の下、窓を開け放つと、遠くで風鈴の涼やかな音が聞こえてきます。 そんな穏やかな情景を、ひとつの練り切りに閉じ込めたかのような上生菓子に出会いました。
写真の上生菓子は、銘を『団扇』といいます。 淡く優しい黄緑色は、夏の始まりを感じさせる若葉のようです。手に取ると、練り切り特有のしっとりとした感触が指先に伝わってきます。

この和菓子の魅力は、何といってもその意匠にあります。 表面には団扇の骨を思わせる繊細な線が描かれ、中央には小さな風鈴が浮き彫りになっていました。 まるで、この団扇をひと扇ぎすれば、チリンと軽やかな音が響き渡るのではないかと思わせる、遊び心のある表現です。
一般的に上生菓子にはこし餡が用いられることが多いですが、黄身餡は口に含んだ瞬間に、よりまろやかで奥深いコクが広がります。 この黄身餡の優しい甘さが、風鈴の涼しげな意匠と合わさって、暑い夏にほっと一息つけるような、心温まる味わいを生み出しているのです。
この団扇を、冷たいお抹茶や冷茶とともに味わってみてください。 冷やした器にそっと乗せれば、見た目からも涼を感じることができます。 職人の繊細な手仕事と、夏の風情を愛でる心が詰まったこの一品は、まさに五感で楽しむことができる芸術です。 暑さを忘れて、心静かに和菓子と向き合う「ひととき」を、どうぞ大切にしてください