上生菓子『蛍火』

完成した蛍火2 上生菓子

こんにちは、和菓子屋のあんまです。

今回は上生菓子『蛍火』をご紹介します。

上生菓子

上生菓子とは、日本の伝統的な和菓子の一種で、特に茶道や季節の行事で用いられる主菓子です。
上生菓子では季節の花や生き物、風景などから季節を感じられる言葉を具現化して表現したものまで色んな種類の材質(お菓子の種類)で表現します。
その種類一つにとっても様々な表現方法があり、職人の技術がお菓子として見られるのも特徴です。

今回の『蛍火』は練切(ねりきり)製です。

練切(ねりきり

練切とは、あんこに餅や芋などのつなぎを加えて、のびやすく作業性のあるあんこで、繊細でデザイン性のあるお菓子が作れることが特徴です。

白餡に餅や芋を加えるとより白くあがり、着色をして様々な色を表現できることも特徴です。


『蛍火』

6月は梅雨のじめじめした時期ですが、きれいなホタルがあちらこちらで飛んでいて風流な季節ですよね。
菓名は季節やお菓子に合わせてつけることができますが、今回はホタルが放つ光を表す意味で『蛍火』と名付けました。
俳句の世界では夏の季語としても使うことができるみたいですね。

まずはそのホタルについて詳しくみてみましょう。

〇ホタルとは?

ホタル(蛍)は、コウチュウ目ホタル科に属する昆虫の総称で、世界で約2,000種以上が確認されています。
日本では主に「ゲンジボタル」「ヘイケボタル」「ヒメボタル」の3種が有名です。
ホタルは発光することで知られており、その幻想的な光から夏の風物詩としても親しまれています。

「ゲンジボタル」や「ヘイケボタル」は名前の聞くホタルですよね。


〇ホタルの基本情報

・学名:Lampyridae(ホタル科の総称)
・分類:昆虫綱 コウチュウ目(甲虫目)ホタル科
・体長:約5~20mm(種による)
・生息地:湿地、川辺、森林など
・食性:幼虫は肉食(カワニナなど)、成虫は種類によって異なる(花の蜜、何も食べない等)
・発光:幼虫・成虫ともに発光する種が多い


○ホタルの発光の仕組み

ホタルの光は、「ルシフェリン」という発光物質と「ルシフェラーゼ」という酵素が反応して発生します。この化学反応には酸素とATP(細胞のエネルギー源)が必要です。

発光の特徴:

  • 熱をほとんど出さない「冷光」
  • 発光の色は黄緑~黄
  • 通常、オスが求愛のために光を点滅させる(メスも光で応答)

てっきりオスだけが点滅するのかと思っていたのですが、メスも光ることがあるのか!と初めて知りました。


○ホタルと自然環境

ホタルは環境の変化に非常に敏感で、「環境指標生物」とされます。きれいな水、適度な湿度、外灯の少ない環境などがそろわないと生息できません。そのため、ホタルの姿が見られる場所は、自然が保たれている証ともいえます。


○雑学・豆知識

・成虫のホタルはほとんど餌を食べない。(口が退化している種類もある)
・ホタルの光は捕食者への警告の意味もある。(「自分はまずいぞ」というサイン)
・熱帯地方では昼行性で発光しないホタルも存在する。

ホタルの儚さが改めてよくわかりました。


そんな儚いホタルを練切で表せるようにデザインして作っていきましょう。
今回の『蛍火』は薄い緑を基調に白でぼかして、淡い色合いで儚さをイメージしながら作っていきます。

まずは練切を基調となる緑色に着色していきます。和菓子の世界では若草色といいます。
今回は淡い色合いですが、ちゃんと若草色だとわかるくらいの色合いにはしたいと思います。

蛍火用緑の練切
蛍火緑練切の種切り

中のあんこ(中餡)は黒餡を使用します。
ヘラを入れることはないので暗い色合いのあんこでも大丈夫です。

蛍火用中あん


まずは若草色の練切に白色の練切を貼りぼかししていきます。

蛍火の緑練切と白練切の貼りぼかし

きれいに白色がぼけました。

キレイにぼけた蛍火の練切

中あんの黒あんを包餡(あんこを包むこと)します。

蛍火の中餡を包餡

きれいに表面がぼけた状態で仕上がってきました。

きれいにぼけた状態で包餡された蛍火

次にホタルの光っているイメージで黄色を着色します。
後ろの若草色、白色が淡いのでここで色味の強い黄色をいれてしまうと悪く目立ってしまうので、こちらの黄色も淡く着色していきます。

蛍火用の黄色に着色した練切

小さく黄色をとって、

蛍火の小さく切り取った黄色の練切

2か所に上から貼りぼかしでぼかしていきます。
あまりぼかしすぎると光っている幅が広がってくるのでのばしすぎないように気を付けていきます。

2か所黄色にぼかした蛍火

さて、すべての練切が合わせられたら形を作っていきます。
今回は線の入った状態での形に仕上げます。この線のはいった状態にするために“千筋板”というものを使います。

千筋板

ここに練切を打ち付けることによって、

千筋板に打ち付けた蛍火
千筋板に打ち付けて起こした蛍火

このように均等に筋の入った状態の練切が出来上がります。
周りの部分をもみ上げて形を整えていきます。

この時に気を付けることは、黄色のぼかしの位置を考えて千筋板に打ち付けることです。
位置を間違えると何個も作るお菓子のデザインがばらばらになってしまうので、揃えるためにもしっかりと合わせていきます。
また、表面の筋がはいっていることが重要なので、この表面を触らないように気を付けていきます。


次にホタルがとまる草木をイメージして線をつけます。草木はツユクサを想定しています。
草木の緑色を表すためにはこちらを使います。

ツユクサをイメージしてつける緑の線用の抹茶

抹茶です。
この抹茶に丸いセルクル型をつけて表現していきます。

このようになります。
ツユクサの向きや方向は同じになると少し面白みにかけるので、変えながらつけていきます。

緑の線がついた蛍火

さあ、ここにホタルを表現していきます。
ホタルは黒ごまで表現します。
1匹はツユクサに乗るように、もう1匹は飛んでいるように配置します。
もちろん光をイメージしてつけた黄色の練切に合わせてつけていきます。

ホタルをあらわすために黒ゴマを乗せた蛍火

完成です。

いかがでしょうか?

完成した蛍火
完成した蛍火2

今回は練切で『蛍火』を作りました。
ホタルを表す上生菓子は様々な材質もそうですが、時期や見せ方に応じて菓名を変えることができます。
飛んでいる様を表した『蛍火』は黒ごまの配置や向きによって雰囲気も随分と変わりますので、毎年趣向を変えられて面白味があります。

ぜひお抹茶や煎茶と一緒に季節を感じながら、ホッと一息。どうぞ召し上がってください。

そんな私の作るお菓子が食べられるお店は富山県南砺市にある朝山精華堂というお店になります。
朝山精華堂オンラインショップはこちらから。

朝山精華堂オンラインショップ

Instgramもやっています。こちらもどうぞよろしくお願いします。

朝山精華堂Instgram

タイトルとURLをコピーしました