こんにちは、和菓子屋のあんまです。
今回は日本の五節句、「重陽の節句」について調べてみました。
日本の五節句とはなにか?も含めて、お菓子とも絡めてみましたので、ぜひお読みください。
日本の五節句、「重陽の節句」について調べてみた!
日本の暦には、季節の節目となる大切な日として五節句があります。人日(じんじつ)・上巳(じょうし)・端午(たんご)・七夕(しちせき)、そして最後に巡ってくるのが、9月9日の「重陽の節句(ちょうようのせっく)」です。
桃の節句や端午の節句に比べると、現代ではその風習が薄れつつありますが、重陽の節句は、古来より長寿と不老不死を願う重要な行事として、宮中や武家の間で盛大に行われてきました。
今回はこの重陽の節句が持つ意味、行事の内容、そしてこの時期に欠かせない和菓子の役割について、詳しく探っていきます。
1. 重陽の節句とは何か? その起源と意味
1.1. 「重陽」の意味:陽が重なる日
重陽の節句の「重陽」とは、古代中国の陰陽思想に由来します。中国では、奇数を「陽(吉)」、偶数を「陰(凶)」と考えます。その奇数の中でも最大の数である「九」が重なる日、つまり「9月9日」は、非常に縁起が良い「陽が重なる日」とされました。これが「重陽」という名前の由来です。
しかし、陽が極まると今度は陰に転じるという考え方もあり、この日は不吉なことが起こらないように、邪気を払い、長寿を願うための行事を行う必要がありました。
1.2. 節句の由来と日本への伝来
五節句は、中国から奈良時代に日本へ伝来したもので、平安時代になると宮中の年中行事として定着しました。当時の宮中では、重陽の節句は「菊の節句」とも呼ばれ、一年を締めくくる節句として、非常に重んじられていました。
日本に伝わった後、この風習は日本の秋の収穫祭などの文化と結びつき、庶民の間にも広まっていきました。特に、菊の栽培が盛んになり、菊を愛でる文化は日本の重陽の節句の象徴となっていきます。
2. 重陽の節句の主な風習
重陽の節句の行事は、主に「菊」と「栗」をキーワードに行われます。
これらは、邪気を払い、長寿を願うという節句のテーマに深く関わっています。
2.1. 菊酒(きくざけ)をいただく
重陽の節句の最も代表的な風習が、菊酒を飲むことです。
- 「菊」の力:中国では、菊は延命長寿の霊薬と信じられてきました。菊の香気には、邪気を払い、血行を良くする作用があるとされています。
- 風習:前夜の「宵の節句」に、菊の花に真綿を被せて香りを移し、翌朝、その香りが移った露を拭き取って体に付け、長寿を願う「着せ綿(きせわた)」の風習がありました。
重陽の当日には、その菊の花びらを浮かべた菊酒を飲み、不老長寿を願います。現代では、食用の菊を浮かべた日本酒を指すことが一般的です。
この菊酒を飲むことで、「千代に八千代に栄える」という願いが込められていました。
『着せ綿』は今年、上生菓子でも作りましたのでぜひご参考にしてみてください。
2.2. 栗ご飯を食べる
重陽の節句は、ちょうど栗の収穫期と重なるため、「栗の節句」とも呼ばれます。
この日には、栗ご飯を炊いて食べる風習があります。栗は栄養価が高く、古くから重要な食料源でした。新米が獲れる前の時期に、収穫されたばかりの栗をいただくことは、豊穣を祝うとともに、秋の味覚を楽しみ、来る冬への備えをするという意味合いも持っています。
2.3. 観菊の宴(かんぎくのえん)
平安時代、宮中では重陽の節句に観菊の宴が催されました。菊を鑑賞し、菊酒を楽しみ、菊にまつわる歌を詠むという、非常に優雅な行事でした。この観菊の風習は、後の江戸時代に至るまで、武家や庶民の間にも広がり、秋を代表する文化の一つとなっていきました。
3. 重陽の節句と和菓子の結びつき
重陽の節句の行事において、和菓子は供物として、また、宴の席を彩る茶請けとして、重要な役割を果たしてきました。特に、この時期の和菓子は、「菊」と「栗」の二つのテーマを巧みに表現し、節句の趣を深めます。
3.1. 「菊」を写す上生菓子
重陽の節句の和菓子といえば、まず思い浮かぶのが菊をモチーフにした上生菓子です。
- 菊練切:練り切りを黄色や白に染め、細工をして、菊の花を忠実に表現します。この菊の花は、ただ美しいだけでなく、長寿を願う吉祥の象徴です。
- 着せ綿(きせわた)の意匠:前述の「着せ綿」の風習をかたどった和菓子もあります。菊の花の上に、白い真綿(餡や求肥)をふわりと被せたような意匠は、非常に風雅で、宮中の雅な雰囲気を今に伝えています。
- 琥珀糖や錦玉羹:透明感のある寒天や砂糖を使った琥珀糖や錦玉羹に、菊の花を閉じ込めたものは、見た目にも涼やかで、菊の持つ清らかさを表現しています。
これらの和菓子は、観菊の宴の席で、菊酒とともに供され、目でも舌でも節句の風情を味わうために欠かせないものでした。
3.2. 「栗」を味わう栗菓子
重陽の節句が「栗の節句」とも呼ばれることから、この時期の和菓子には栗をふんだんに使ったものが登場します。
- 栗蒸し羊羹:羊羹の中に大粒の栗の甘露煮をゴロゴロと入れた栗蒸し羊羹は、秋の訪れを感じさせる代表的な和菓子です。しっとりとした羊羹と、ほっくりとした栗の食感のコントラストが楽しめます。
- 栗きんとん:蒸した栗を裏ごしし、砂糖を加えて茶巾で絞って形作った栗きんとんは、栗そのものの風味を生かした素朴で上品な味わいが特徴です。栗の収穫期と重なることから、まさに重陽の節句を代表する秋の味覚です。
- 栗饅頭、栗餡のお菓子:栗の餡を使ったお饅頭や最中なども、この時期の贈答品として重宝されます。
栗の持つ滋味と、和菓子職人の技術が結びつき、重陽の節句にふさわしい豊かさと恵みを感じさせてくれます。
3.3. 縁起を担ぐ「きゅうり」と和菓子
少し珍しいつながりとして、重陽の節句の時期に供えられる「きゅうり(九里)」にちなんだ和菓子もあります。
これは、重陽の「九(きゅう)」と栗の「里(り)」を合わせて「九里九里(くりくり)」と読み、この語呂合わせから、「利を九つ重ねる」という縁起を担ぎ、栗に見立てたきゅうりの菓子を供える風習があった地域もあります。
4. 重陽の節句が現代に伝えるもの
現代において、重陽の節句の風習を本格的に行う家庭は少なくなりました。しかし、この節句が伝える「長寿を願い、季節の恵みに感謝する」という精神は、今も大切にされています。
9月9日頃は、暑さが和らぎ、本格的な秋の気配が漂い始める時期です。菊の優雅な香り、栗のほっくりとした甘さなど、重陽の節句は、五感で季節の移ろいを感じさせてくれます。
この節句の和菓子は、単なるお菓子ではなく、先人の長寿への願いと、自然への敬意が凝縮された文化の結晶です。和菓子を通して、私たちは古の宮廷文化の雅やかさや、日本の季節の美しさを再認識することができます。
5. まとめ:重陽の節句を和菓子とともに楽しむ
重陽の節句は、「陽」のエネルギーが極まる9月9日に、そのエネルギーを自らのものとし、邪気を払い、永遠の命を願った、壮大で優雅な行事でした。
現代に生きる私たちも、この時期にはぜひ、菊をかたどった上生菓子を愛で、栗蒸し羊羹や栗きんとんといった季節の和菓子を味わい、「長寿」と「豊かな実り」を静かに願ってみてはいかがでしょうか。
和菓子は、その美しい意匠と上品な甘さで、五節句という日本の伝統を今に伝える大切な役割を担っています。重陽の節句に和菓子をいただくことは、千数百年の歴史を持つ日本の美しい文化を、現代の生活に取り戻す、素敵な試みとなるでしょう。


