上生菓子『冬支度』

上生菓子冬支度 上生菓子

こんにちは、和菓子屋のあんまです。
今回は上生菓子で『冬支度』を作りました。

❄️ 雪化粧を待つ静かな時間 上生菓子『冬支度』に込めた自然の知恵


木々がほとんど葉を落とし、空気がキリッと冷え込み始めると、いよいよ冬の始まりです。

私たち人間も、厚手のコートを出したり、暖房器具の準備をしたり、忙しくなりますが、自然界も同じですよね。動物たちは冬眠のために栄養を蓄え、木々は雪から身を守るためにエネルギーを幹に集中させる。この厳しくも静かな「冬支度」の期間は、自然の生命力の賢さを感じさせてくれます。

今回は、そんな冬への備えと、雪を待つ静かな情景を、上生菓子のきんとんあんで表現してみました! 菓名は、この季節の営みを象徴する『冬支度(ふゆじたく)』です。

きんとんあんの粒感で表現する「土の温もり」と「雪の気配」

この『冬支度』は、指定の通りきんとんあんを使った「きんとん」の技法で、その素朴で力強い姿を表現しました。

まず、一番こだわったのは、この小豆色のそぼろです。

  • きんとんあん: 並餡を寒天で固めたあんこを「きんとんあん」と呼びます。このきんとんあんをふるいにかけてそぼろ状にします。そのそぼろ状のきんとんあんを箸でつぶあん(中あん)に植え付けていきます。この粗い粒感が、冬眠前の動物の毛並みや、雪の下で眠る土の豊かな質感を表現しています。
  • 色合い: 晩秋から冬にかけての、土の色枯れた草木の色を思わせる深い小豆色を選びました。黒餡を使うことで小豆色の素朴な色をそのまま出しました。これは、外の寒さとは裏腹に、土の中には温かい生命力が満ちていることを示しています。

そして、このお菓子の最大のポイントは、表面に施した白い粉です。

  • 雪の表現: 細かくまぶした白い粉は氷餅と言って、餅を冷やして乾燥させて砕いたものになります。氷餅を指で細かく砕いてきんとんの上に散らしました。舞い始めたばかりの初雪や、雪の気配を感じさせてくれるアクセントになっています。このわずかな白さが、厳しい冬がもうすぐそこまで来ているという、静かな緊張感を表現しています。

この素朴でありながら奥深い姿が、冬に向けてエネルギーを蓄える、静かな自然の営みを伝えてくれていますね。

上生菓子冬支度

餅入りの「しっかりとした食べ応え」が、冬を乗り切る力に

菓名札にある通り、この『冬支度』の中身はつぶあんです。

つぶあんの持つ深いコクと、きんとんあんのホロホロとした口溶けが合わさって、厳しい季節に負けない活力を与えてくれる一品に仕上げています。

命の力を慈しむ「ひととき」

冬支度は、厳しい季節を乗り越えるための大切な準備です。この時期の和菓子は、私たちに「温かく、しっかりと栄養を摂りなさい」と語りかけてくれているようです。

この『冬支度』をいただくときは、ぜひ、温かい濃いめのお抹茶や、香りの良いほうじ茶など、体の芯から温まるお茶と合わせてみてください。この和菓子を手に、冬の静けさと、その下で息づく命の力に思いを馳せる。

皆さんも、この『冬支度』で、心身ともに充実した、静かで力強い「ひととき」を過ごしてくださいね。

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