夏の光を一身に浴びて 上生菓子『向日葵』が語る情熱の色彩
照りつける陽射しの中に、ひときわ鮮やかな黄金色を放つ向日葵。その花は、夏の生命力の象徴であり、私たちに前向きな活力を与えてくれる存在です。
この圧倒的な夏の輝きを、静謐な和菓子の世界へと移し替えたのが、上生菓子『向日葵』です。

練り切りに凝縮された、太陽への「ひたむきさ」
この『向日葵』は、職人の手わざが光る練切でできています。
まず目を引くのは、その色彩の力強さです。花びらをかたどる練切は、ただの黄色ではなく、夏の光を吸い込んだような、深い輝きを持つ黄金色に染め上げられています。
そして、その造形の繊細さに目を凝らしてください。 花びら一枚一枚には、ヘラを用いて丁寧に入れられた筋が見て取れます。この「ヘラあと」が、平らな練り切りに奥行きを与え、風に揺らぐような躍動感を生み出しています。力強いモチーフでありながら、この繊細な仕事によって、和菓子らしい品格が保たれているのです。
命の輝きを写す、中心の「リアリズム」
この上生菓子の表現で、特に心を打たれるのが、中心部の写実性です。
濃い茶色で表現された種の密集部分には、本物の種を思わせる白い粒が丁寧に散らされています。これは白ごまを使用しています。このわずかな粒が、和菓子全体にリアリティを与え、命の息吹を感じさせます。
外側の華やかさと、中心部の地道な生命力の対比こそ、向日葵の本質。職人は、この小さな一粒に、自然を深く見つめる美意識を込めているのです。
添えられた札にある通り、この『向日葵』は中の餡に白餡を用いています。練り切りのしっとりとした口溶けのあと、白餡特有の清らかで上品な甘さが広がります。この澄んだ甘さが、夏の暑さを忘れさせ、心を静かに満たしてくれるのです。
光を愛でる、静かな「ひととき」
向日葵は、常に太陽を追いかける「向日性」を持つ花です。 この上生菓子をいただくことは、私たちもまた、常に希望や目標といった「光」を求めて生きていくことの大切さを、改めて心に刻む行為なのかもしれません。
古く味のある陶器の皿に載せられた『向日葵』を前に、冷やしたお抹茶や、香り高い冷たい玉露をいただく。 この一服とお菓子が、真夏の喧騒を忘れさせる、格別な「ひととき」を運んでくれることでしょう。
職人の高い技術と、日本の夏への深い愛が凝縮されたこの一品を、どうぞ心ゆくまでご堪能ください。