こんにちは、和菓子屋のあんまです。
今回は上生菓子で『竜胆』を作りました。
秋の終わりの清らかな紫色 上生菓子『竜胆』の奥ゆかしい美しさ
だんだんと秋が深まりだすと、野山ではひっそりと竜胆(りんどう)が、その美しい花を咲かせます。静かに凛とした紫色をたたえる竜胆は、秋を彩るヒロインのようですよね。
私は、この竜胆の持つ「奥ゆかしさ」と「清らかさ」が大好きなんです。今回は、そんな秋の静かな美しさを、上生菓子の練切で表現してみました!
菓銘は、もちろん『竜胆(りんどう)』です。
練切で表現する「控えめな五弁」と「蕾の形」
この『竜胆』は、練切を使った**「寄りだし」と「ヘラ切り」の技法で、その姿を表現しました。
まず、花びらの色は、竜胆特有の少し青みがかった薄紫色です。花びらの先には濃紫色を加えてぼかしてあります。この色が、秋の冷たい空気感を表現してくれます。
竜胆の花は、五弁で、上向きに口をすぼめたような形が特徴的ですよね。この和菓子でも、ヘラを使って花びらの間にしっかりと線を入れ、控えめながらも立体的な五弁の花を形作りました。花全体に丸みを持たせることで、今にも開きそうな蕾のような、秘めたる美しさを表現しています。
そして、中心のしべもポイントのひとつです。
裏ごしふるいでこした白い練切を、花の中心にフワッと盛り付けました。これは、花びらの奥でひっそりと輝くしべを表しています。この白い光が、薄紫色の花全体に、清らかな印象を与えてくれます。
黄味あんの「優しさ」が秋の深みを添える
菓名札にある通り、この『竜胆』の中身は黄味あんを使いました。
竜胆は、薬草としても知られる苦味を持った植物ですが、この和菓子では、黄味あんの持つまろやかでコクのある優しい甘さが、その苦味を包み込み、秋の深みのある味わいへと変えてくれます。
黄味あんの素朴な甘さが、見た目の繊細さと相まって、心がホッとするような温かさを運んでくれるんです。

過ぎゆく季節を愛でる「ひととき」
竜胆の花言葉には、「正義」「誠実」といった意味があり、その姿は日本の侘び寂びを感じさせてくれます。
この『竜胆』をいただくときは、ぜひ、温かいお抹茶や、深煎りのほうじ茶など、秋の香りが濃いお茶と合わせてみてください。この静かな和菓子を眺め、秋の深まりを感じながら、心穏やかな時間を過ごす。
皆さんも、この『竜胆』で、過ぎゆく秋の美しさと、心豊かな「ひととき」を過ごしてくださいね。

