こんにちは、和菓子屋のあんまです。
今回は金沢が誇る加賀藩のお正月銘菓『福梅』について詳しく調べてみました。
なんで富山県南砺市のお菓子屋さんが金沢のお菓子を?と思われるかもしれませんが、南砺市は金沢市と隣接しており、古く江戸時代は加賀藩の一部でした。
そのため、加賀藩の文化は我々の地域(富山県西部)にもたくさん入ってきていたりします。
『福梅』もその一つです。
その『福梅』を今回は詳しく調べてみましたので、ぜひお読みください。

加賀の冬を彩る、新春の象徴「福梅」——その歴史と魅力のすべて
北陸・金沢の冬は、鉛色の空からしんしんと雪が降り積もる静寂の世界です。
しかし、そんな厳しい寒さの中、金沢や我々富山県西部の家庭やお菓子屋さんの店先を一気に華やかに彩るお菓子があります。それが、新春を祝う縁起菓子『福梅(ふくうめ)』です。
紅白の愛らしい梅の形をしたこのお菓子は、単なるスイーツという枠を超え、「お正月のアイデンティティ」とも言える存在です。本稿では、福梅の由来から独特の製法、そして加賀藩の茶の湯文化との関わりまで、その奥深い世界を紐解いていきます。
1. 福梅とは何か?——金沢の正月に欠かせない「不動の主役」
福梅は、梅の花をかたどった「最中(もなか)」の一種です。しかし、一般的な最中とは一線を画す特徴をいくつも持っています。
特徴的な外観と色
福梅は、ふっくらとした五弁の梅の花の形をしています。色は「紅(ピンク)」と「白」の2種類があり、これらが詰め合わされることで、新春にふさわしい「紅白」のめでたさを演出します。表面には、雪を模した白い砂糖(和三盆やグラニュー糖)がうっすらとまぶされており、金沢の冬の情景を彷彿とさせます。
当店ではグラニュー糖を使っていますが、金沢市内では様々な砂糖が使われており、各お店の味がでて面白いです。
独特の食感と「硬さ」
初めて福梅を食べる人が驚くのが、その「硬さ」です。
一般的な最中は、皮がパリッとしていて、中のあんこはしっとりとしています。しかし、福梅の皮は厚みがあり、非常にしっかりと焼き上げられています。さらに、中の「あん」は、水飴をたっぷりと練り込んだ、非常に粘り気の強い「最中あん」です。
この「硬い皮」と「ねっとりとした重厚な最中あん」の組み合わせが、福梅ならではの力強い食べ応えを生んでいます。
2. 福梅の歴史と由来——加賀藩主・前田家との深い縁
福梅の歴史を辿ると、加賀藩・金沢の文化を築き上げた前田家と、菅原道真公への信仰が深く関わっています。
前田家の家紋「剣梅鉢」
加賀藩主・前田家の家紋は「加賀梅鉢(かがうめばち)」です。前田家は、学問の神様として知られる菅原道真(天神様)の末裔を自称しており、道真公が愛した梅を家紋として大切にしてきました。
このことから、金沢では「梅」は非常に格式高い、特別なモチーフとされてきました。
福梅の誕生
福梅の原型は、江戸時代、加賀藩10代藩主・前田重教(しげみち)の時代に、新年の茶会で献上されたものだと言われています。
当時の金沢は、徳川幕府への忠誠心を示しつつも、独自の文化を花開かせていた時期でした。藩主の家紋を模したお菓子を正月に食べることは、藩への忠誠と、一族の繁栄を願う重要な儀式的な意味も含まれていたと考えられます。
明治以降、この習慣は一般庶民にも広まり、現在のように「加賀藩・金沢の正月の定番」として定着しました。
3. なぜ「硬い」のか?——保存食としての知恵と美学
福梅がなぜこれほどまでに硬く、甘みが強いのか。そこには、雪国ならではの知恵と、かつての生活習慣が反映されています。
長期保存を前提とした作り
昔、お正月のお菓子は、年末に用意して三が日、あるいは松の内(1月15日ごろ)まで持たせる必要がありました。福梅は、あんの水分量を極限まで減らし、糖度を高めることで、保存性を飛躍的に高めています。
最中あんは保存性を高めるには最適のあんこになります。
また、厚手の皮は中のあんを乾燥から守り、時間が経っても品質が落ちにくいように工夫されています。
「お供え」としての役割
福梅は食べるだけでなく、仏壇や神棚に備える「鏡餅」のような役割も果たしていました。乾燥した冬の空気の中で、数日間お供えしても形が崩れず、美味しく食べられること。そのための「硬さ」であり「甘さ」なのです。
4. 職人のこだわり——福梅ができるまで
一見シンプルな最中に見える福梅ですが、その製造には和菓子店の職人の技が凝縮されています。
1. 餅皮(最中種)の製造
最高級の糯米(もちごめ)を使用し、型に入れて焼き上げます。福梅特有の「重厚な質感」を出すため、火加減を細かく調整し、水分をしっかり飛ばします。
2. 特製のあん(餡)
福梅のあんは、ただの小豆あんではありません。厳選された小豆を炊き上げた後、たっぷりの水飴を加えて長時間練り上げます。「練る」というより「炊く」という感じで、あまりへらを入れないのがポイントです。しっかりと時間をかけて炊くことで福梅特有の強い粘りとコクを生み出します。
3. 仕上げの「粉糖」
焼き上がった皮にあんを詰め、合体させた後、表面に砂糖をまぶします。これは見た目の美しさだけでなく、皮の食感にアクセントを加える役割も持っています。
5. 金沢の菓子店と「福梅」の個性
金沢市内には多くのお菓子屋さんがあり、それぞれが独自の「福梅」を作っています。
地元の人には「私は〇〇派」というこだわりがあるほどです。
6. 福梅をより美味しく楽しむために
福梅は、そのままでももちろん美味しいですが、より深く味わうためのポイントがあります。
お茶とのペアリング
福梅は非常に甘みが強く、ボリュームがあります。
そのため、合わせる飲み物は「濃いめの抹茶」や「熱い加賀棒茶(ほうじ茶)」が最適です。
特に、金沢特産の茎を焙じた「加賀棒茶」の香ばしさは、福梅のあんのコクを引き立て、後味をすっきりとさせてくれます。
少し温める楽しみ方
通な楽しみ方として、オーブントースターで数十秒だけ軽く炙る方法があります。
皮の香ばしさが復活し、中のあんが少しだけ柔らかくなることで、出来立てのような風味を楽しむことができます(周りに砂糖がまぶしてありますので焦げやすく注意が必要です)。
7. 現代における福梅——受け継がれる「縁起」の心
現代では、お菓子の種類も増え、お正月の過ごし方も多様化しています。しかし、金沢において福梅が廃れることはありません。
我々南砺市もそうであってほしいですね。
それは、福梅が単なる食べ物ではなく、「厳しい冬を越え、春を待つ」という北陸の人々の不屈の精神(忍耐と希望)を象徴しているからです。
梅は、百花に先駆けて寒さの中で咲く花です。その力強い生命力を福梅を通じて体内に取り入れることで、新しい一年を健康に、そして力強く歩み出そうという願いが込められているのです。
また、最近では帰省の手土産や、遠方に住む家族への贈り物としても重宝されています。「金沢の冬の味」を送ることは、家族の絆を確認する大切なコミュニケーションの一つになっています。
8. 結び——福梅が教えてくれる「金沢の心」
加賀藩のお菓子「福梅」について詳しく見てきました。
一見すると、硬くて甘すぎる、古めかしいお菓子に思えるかもしれません。しかし、その一口の中には、加賀百万石の歴史、雪国の厳しい冬を生き抜く知恵、そしてお茶文化が育んだ美意識がぎっしりと詰まっています。
もしあなたが冬の金沢を訪れることがあれば、あるいは金沢の友人から福梅が届くことがあれば、ぜひその美味しさをじっくりと噛みしめてみてください。
そこには、春を待ちわびる温かい心が宿っているはずです。
その中で当店の福梅も手に取っていただけると幸いです。
「福を呼ぶ、梅の花」。

