こんにちは、和菓子屋のあんまです。
夏の賑わいから秋の静けさへ 上生菓子『鈴の音』に聴く夜のコンサート
暦の上では秋、日が沈むのも早くなり、夜になるとどこからともなく「リーン、リーン…」という美しい音色が聞こえてくる季節になりました。
そう、鈴虫をはじめとする秋の虫たちが、夜の帳の中で静かなコンサートを開いてくれているんですよね。
あの音色を聴くと、夏の賑やかなお祭り気分は終わり、心穏やかな時間が始まるんだな、と感じます。今回は、そんな秋の風情を代表する「鈴の音」を、上生菓子の練切で表現してみました!
銘は、そのまま『鈴の音』です。
練切に刻む、繊細な「音の波紋」
この『鈴の音』は、練切を使いました。平打ちをして丸さを強調し、夜空に浮かぶ満月のようにも、澄んだ鈴の音がフワッと広がっていく様子にも見えるようにこだわりました。
ただ、丸いだけでは面白くないので、下面を平板で擦切ることで只野丸の形だけではない動きを付け加えました。
色合いは、淡い黄色。これは、鈴虫が隠れている枯れ草の色でもあり、また夜空に輝く優しい月の光の色でもあります。この繊細な色が、和菓子全体に静けさと温かみを与えてくれます。
そして、このお菓子の最大のポイントは、表面に均等に刻まれた細い線です。
これは、千筋板を使って筋を入れています。この筋が、鈴虫の音色が夜の空気に乗って、波紋のように広がっていく様子を表現しています。シンプルな形の中に、こんなにも繊細な「動き」を表現できるのが、練切の面白いところです。
黒ごまの「点」と、白あんの「線」で描く秋草
丸いお菓子の中央には、わずかながら絵付けを施しました。
抹茶でセルクルを使って線で描き、鈴虫が隠れている秋の草の葉を表現しました。そして、その葉の先端には、小さな黒ごまを一粒。この黒ごまが、音色を奏でている鈴虫そのものを表現しています。この小さな「点」があるだけで、和菓子全体にストーリーが生まれますよね。
札にある通り、中身の餡は白あん。鈴虫の音色のように清らかで優しい白あんと、黒ごまの持つ香ばしさが合わさって、秋の夜の風情を感じる、奥ゆかしい味わいになりました。

静けさの中で楽しむ「ひととき」
鈴虫の音色は、耳を澄まさなければ聞こえない、とても控えめな音です。
この『鈴の音』をいただくときも、ぜひ静かな場所で、心に余裕を持って、音色に耳を傾けるように楽しんでみてください。
温かいお茶、特に玄米茶やほうじ茶など、香ばしさが強いお茶と合わせるのがおすすめです。お茶の香りと、和菓子の優しい甘さが、秋の夜長を豊かに彩ってくれますよ。
皆さんも、この『鈴の音』とともに、心穏やかで贅沢な「ひととき」を過ごしてくださいね。

