こんにちは、和菓子屋のあんまです。
今回は上生菓子で『初雁』を作りました。
空高く、秋の訪れを告げる使者 上生菓子『初雁』に聴く旅立ちの音
夏の暑さが去り、空が一段と高く澄み始める頃。遠くの空に「V字」になって飛んでいく鳥の群れを見たことはありますか? あれが、秋の使者、「雁(かり)」です。北の国から、長い旅をして日本にやってくる渡り鳥ですね。
中でも、そのシーズンに初めて見る雁のことを「初雁(はつかり)」と呼び、古くから秋の風物詩として愛されてきました。この雁が空を渡る姿を見ると、「ああ、本格的な秋が来たんだな」と感じます。
今回は、そんな秋の始まりの象徴を、上生菓子の練切で表現してみました! 菓銘は、『初雁』です。
練切で表現する「秋の空」と「渡りの軌跡」
この『初雁』は、練切を使った巻仕上げの技法で作りました。
名前の通り、薄く伸ばした練切であんこを巻いて仕上げることから巻仕上げと呼びます。
まずは黄色の練切と白の練切をぼかしたら、薄く伸ばします。
厚みを整えたら欲しい長さに包丁でカット。長方形に整えます。
きれいな辺を崩さないように優しく持ち、芯(中あん)を巻いて仕上げます。
このシャープな形で、雁が空を渡る「一直線の軌跡」や、秋のキリッとした空気を表現しています。
そして、一番のポイントは、表面の「焼き印(焼なし)」です。
和菓子の表面に、雁が飛ぶ姿を模した模様を刻みました。この模様が、広大な空を悠然と渡っていく旅の使者の姿を物語ってくれます。
シンプルながらも、この「雁」の意匠があることで、お菓子全体に深い情緒が生まれます。
黒あんの持つ「大地」の味わい
菓名札にある通り、この『初雁』の中身は黒あんを使いました。
空を飛ぶ雁の姿とは対照的に、黒あんの持つ素朴で深い甘さは、雁たちが目指して旅をする「豊かな大地」の味わいを表現しています。
練切の爽やかな食感と、黒あんのコクが合わさって、秋の「実り」と「旅立ち」という二つのテーマを同時に感じさせてくれる、奥ゆかしい味わいに仕上げています。

遠い空に想いを馳せる「ひととき」
雁は、長い距離を仲間と協力して飛び続ける、絆の強さの象徴でもあります。
この『初雁』をいただくときは、ぜひ、少し窓を開けて、外の涼しい秋風を感じながら。温かいほうじ茶や、煎茶などと合わせて、ゆっくりと味わってみてください。
この和菓子を眺めながら、自分自身の目標や、大切な仲間への想いに、静かに心を馳せる。
皆さんも、この『初雁』とともに、心穏やかで、旅立ちの希望に満ちた「ひととき」を過ごしてくださいね。

