こんにちは、和菓子屋のあんまです。
夏の終わりを告げる、静かな星 上生菓子『桔梗』の凛とした美しさ
厳しい夏の陽射しが和らぎ、夕暮れに吹く風に、どことなく秋の気配が感じられる頃。野山では、ひっそりと桔梗(ききょう)が花を咲かせ始めます。
桔梗は、秋の七草の一つ。派手さはないけれど、凛とした佇まいと、静かな紫色が、心を落ち着かせてくれますよね。私はこの桔梗の持つ、静かで思慮深い美しさが大好きなんです。
今回は、そんな桔梗の「凛」とした美しさを、上生菓子の練切で表現してみました! 銘は、もちろん『桔梗』です。
練り切りで描く「五芒星」の清らかさ
桔梗の最大の特徴は、あの五角形(五弁)の形ですよね。この和菓子でも、その形を大切に、練切をヘラで一つ一つ丁寧に筋を入れて造形しました。
色合いは、淡く優しい薄紫色。桔梗は青紫色がベースにくる花なので、その色合いをイメージして色付けしました。この色が、桔梗の持つ奥ゆかしい雰囲気をより引き立ててくれます。
中心を見てください。小さな白い粒が、まるで桔梗の花の真ん中に咲いた小さな星のようですよね。これはしべを表しています。
そして、よく見ると、花びらの中心に向かって、薄いグラデーションがかかっているのが分かりますか? この濃淡が、桔然とした花びらの立体感を生み出しているんです。この小さな工夫が、桔梗の持つ「和の静けさ」を演出してくれるんです。
ほろ苦さがアクセントの『黄味あん』
札にある通り、この『桔梗』の中身は黄味あんを使いました。
黄味あんの持つまろやかでコクのある甘さが、この静かな色合いによく合います。桔梗は、薬草としても使われる、ちょっとほろ苦いイメージもある花。この黄味あんの奥に潜む、ほんのりとした「深み」が、桔梗の持つ凛とした精神性を表現しているように感じられます。
口の中で、練切の優しい舌触りと黄身あんのまろやかさが溶け合う瞬間が、たまらなく幸せなんですよ!

秋を静かに迎える「ひととき」
桔梗は、秋の訪れを知らせてくれる花ですが、その花言葉には「永遠の愛」や「誠実」といった意味も込められています。
この『桔梗』をいただくときは、ぜひ、少しだけ肌寒くなってきた夕方に。静かに心と向き合い、温かいお茶と合わせてみてください。特に、秋の気配を感じさせる玄米茶なんかと合わせると、その香ばしさが桔梗の清らかさを引き立ててくれます。
この小さな五芒星を眺めながら、ゆったりと秋の始まりを迎える。
皆さんも、この『桔梗』で、心穏やかな「ひととき」を過ごしてくださいね。