見上げてごらん、秋の夜空の上生菓子! 『名月』に込めた十五夜の風情
秋が深まり、空気が澄み渡る頃、夜空を見上げると本当に美しいお月様が見られますよね。特に旧暦の八月十五日に見る月は「中秋の名月」と呼ばれ、日本では昔からお団子やススキを供えて、一年で一番美しい月を愛でる習慣があります。
私もこの季節は、夜空の静けさと、そこに輝く満月の温かさが大好きなんです。今回は、そんな秋の夜空をそのままお菓子に閉じ込めたような上生菓子を作ってみました! 銘は、もちろん『名月(めいげつ)』です。
練り切りが描く「秋の夜空」のグラデーション
この『名月』は、練切を使い、ぼかしの技法で夜の月と雲を表現しています。
まず、一番こだわったのは、夜空の色です。練切を紫と白に染めて、ぼかしてあります。
この紫色は、ただの濃い色ではなく、月明かりで照らされた夜空の幻想的な色合いを表現しています。そして、お菓子の下の方の白色は、夜にうっすらとかかる薄い雲を表現しています。
ススキと満月、静かな秋のシンボル
この丸い夜空のキャンバスに描いたのは、秋の風情に欠かせない二つのシンボルです。
一つは、満月。濃い黄色の練り切りを丸く置いて、夜空にポツンと浮かぶ月の輝きを表現しました。この黄色の月が、紫色の夜空に温かい光を添えてくれます。
もう一つは、ススキです。薄い色と濃い茶色の練切を細く伸ばして、風に揺れるススキの穂を焼印を焼かずに押しました。ススキが月に向かって優雅に伸びている姿は、静かで清々しい秋の空気を感じさせてくれます。
この和菓子一つで、「月とススキを眺める十五夜の情景」が完成します。

黒あんの深みが、夜の静寂を運ぶ
札にある通り、この『名月』の中身は黒あんを使いました。
幻想的な夜空の見た目とは対照的に、黒あんの持つ素朴で深い甘さが、和菓子全体に落ち着きと静寂を与えてくれます。これは、静かに月を愛でる「夜の静けさ」を表現しているように感じます。
黒あんのコクのある甘さが、練切の優しい口溶けと共に広がり、秋の夜長にぴったりの、ホッとできる味わいになっています。
心ゆくまで月を愛でる「ひととき」
月を愛でる時間は、私たちに自然の雄大さと、時間の流れの尊さを思い出させてくれます。
この『名月』をいただくときは、ぜひ、少し暗くしたお部屋で、温かいお抹茶や、深煎りのほうじ茶などと合わせてみてください。丸いお菓子を眺めながら、ゆったりと夜の静けさを楽しむ。
皆さんも、この『名月』で、心穏やかで、月明かりのような温かい「ひととき」を過ごしてくださいね。

