こんにちは、和菓子屋のあんまです。
夏の夜の終わりを惜しむ、静かな煌めき 上生菓子『線香花火』
大きな花火大会も終わり、気がつけば、夜風に少しだけ涼しさが混ざり始める季節。夏の終わりって、なんだかちょっぴり切ないけれど、その分、静かな時間が愛おしくなりますよね。
そんな夏の夜の、特別な「静けさ」を閉じ込めたような上生菓子を作りました。銘は、『線香花火』です。

紫色の夜空に散る、最後のきらめき
線香花火といえば、火薬がパチパチと燃え尽きていく、あの儚い美しさが魅力。この和菓子は、まさにその情景を繊細に表現しています。
練り切りでできた丸いお菓子は、深い紫色に染められています。これは、完全に暗くなった夏の夜空、それも夜の帳が降りたような静けさを含んだ色ですよね。この色が、まず私たちを静かな夏の夜へと誘ってくれます。
そして、よく見てください。表面には、細かく引かれた斜めの筋。これは、線香花火の火種をそっと支える紙の「こより」や、夜空に流れ落ちる火花の軌跡を表現しているように見えます。
中心には、ちょこんと赤い小さな粒。これは、まさに火花が散る直前の、熱を持った火種のコアです。そして、その周りに散りばめられた金箔の粒!これが、線香花火の持つ、最後の、そして最も美しい煌めきを表現しています。
金箔の粒が散らされている様子は、線香花火の火花が「まつぼっくり」「ねずみ花火」と変化していく中で、最後にフッと消える瞬間の、光の余韻を感じさせてくれます。
黒あんの持つ「深み」が夜空の色
添えられた札を見ると、中身は黒あん。
この深みのある紫色の練り切りに、素朴でコクのある黒あんの組み合わせは、まさに夏の夜空と、その静けさに響く花火の音のコントラストを味わわせてくれます。
黒あんの持つ落ち着いた甘さは、派手さはないけれど、心にじんわりと染み入ります。線香花火のように、小さくても確かに存在する美しさや温もりを、この和菓子を通して感じられるような気がします。
夏の思い出と、静かに向き合う「ひととき」
線香花火は、一人で、あるいは二人で、静かに楽しむ花火ですよね。 この『線香花火』という上生菓子も、ぜひ、誰かと賑やかに楽しむというよりは、自分自身の心と向き合う**静かな「ひととき」**に味わってみてください。
冷たいお抹茶や、氷を入れた冷たいほうじ茶とともに、この小さな宇宙を眺める。 夏の楽しかった思い出を振り返りながら、ゆっくりと味わう時間は、きっと今年の夏を締めくくる、最高に贅沢な時間になるはずです。